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文化的に選択される科学としての徹底的行動主義

Tanaka, Masaori.
Japan Dog Behaviourist Association, Yokosuka, Japan.

2026年2月11日

機能的一元論の第三段階に向けて
Tanaka, Masaori

要約

徹底的行動主義は B. .F. スキナーによって確立された、行動を自然科学の対象として扱う理論体系である (Skinner,1953 )。本稿の目的は、スキナーによる機能的関係としての記述 (Skinner,1953, 1974 ) を背景とし つつ、徹底的行動主義を本稿において「機能的一元論 (functionalmonism) 」として再定義すること、ならびに 同体系の歴史的展開を三段階に整理し、とりわけ第三段階としての「文化の科学」という可能性 (Skinner,1953, 1971, 1974; Baum, 2005 ) を提示することにある。具体的には、(a) 科学的探究活動を文化的随伴性によって 選択される行動として位置づけ、(b) 統計的優位主義に偏った方法論的随伴性を批判的に検討し、(c) 科学行動 の自己制御としての随伴性再設計という課題を整理する。本稿は在野の立場から、既存文献の再解釈と今後の 研究プログラムの素描を試みるものである。 Keywords: Radical Behaviorism; Functional Monism; Cultural Contingencies; Scientific Rigor; Behavior Analysis


1. 科学は文化的に選択される行動である

科学的探究活動もまた、随伴性のもとで形成・維 持される行動である (Skinner,1953)。スキナーは、 科学を世界の真理を写し取る営みではなく、行動 を予測し制御するための実践的体系として定義し た (Skinner, 1953)。この立場において、科学の存 続は真理性それ自体によって保証されるのではな く、文化的文脈における強化の有無によって決定さ れる (Skinner, 1971) と理解できる。科学における 説明とは、操作可能な変数を同定し、再現可能な関 数関係を確立することである (Skinner,1956)。した がって、学問が社会の中で持続するのは、その成果 が教育、医療、産業などの領域において有用とみな され、社会的強化を受けるからであることが示され ている (Skinner, 1971; Baum, 2005)。この意味に おいて、社会的有用性は学間にとっての生存随伴性 (Skinner,1971; Baum, 2005) であると解釈できる。 すなわち、ある学問領域が文化の中で存続し拡大し ていくかどうかは、具体的な文脈においてどの程度 強化機能を果たすかに依存しているのである。日本 における行動分析学の展開において、島宗(2014) や杉山 (2008) は、スキナーの理論的枠組みを保持し つつ、それを社会実践へと展開してきた。両者の著 作は、行動が三項強化随伴性(島宗, 2014;杉山, 2008) の中で理解されるべきであることを一貫して 示しており、認知的構成概念を説明変数として導入 する立場とは明確に区別されている。


2. 倫理的制約と社会実践という自然実験室

行動科学は、初期には実験室内での刺激・強化操 作を通じて発展してきた (Skinner, 1938)。しかし現 代では、倫理的配慮が強く求められるようになり、罰 や嫌悪刺激を伴う実験は著しく制限されている。こ の変化は、行動分析学の実践の場を実験室から社会 へと移行させ、教育現場、家庭、地域社会が随伴性分 析の主要な場として機能する状況 (Baum,2005) を 生んだ。社会的文脈での実践は、単なる「現場での 応用」にとどまらず、文化的随伴性の再設計 (Skinner,1971) として理解できる。介入の成否は倫理的 許容範囲の中で評価されるため、強化子の選定や反 応クラスの定義などが、より厳密な操作的検討(杉 山,2008) を要求することになる。すなわち倫理的 制約は、操作変数の透明性をより強く要請する条件 として働きうるのである (Skinner, 1956)。


3. 科学者自身も随伴性の支配を受ける

徹底的行動主義の重要な特徴は、科学者自身の行 動も分析対象に含める点にある (Skinner, 1953)。科 学者は文化の外部に立つ観察者ではなく、研究費、 評価制度といった社会的強化子のもとで行動する存 在である (Skinner, 1971)。この点を無視すると、科 学の方法論は容易に社会的に強化されやすい報告様 式(Meehl,1967) へと偏りうる。心理学における再 現性問題は、統計的推論における特定の報告様式が 強化される一方で、検証が十分に強化されなかった 随伴性構造 (Meehl, 1967) として理解できる。した がって、科学的厳密さとは、手続きの再現可能性と 反証可能性(Sidman,1960; Skinner,1956) を基礎に 置く態度であると言える。


4. 機能的一元論の定義と理論的意義

本稿で用いる「機能的一元論 (functional monism) 」とは、スキナーの哲学的立場 (Skinner, 1974) を本 稿の目的に沿って整理した概念である。すなわち、 心的実体や仮説的構成概念を追加するのではなく、 観察可能な随伴性との機能的関係 (Skinner,1953, 1974; Chiesa, 1994) として記述するという規律を 指す。この立場は、心と身体を別実体として分割せ ず、同一の自然過程を扱う一元論(Skinner,1974) である。機能的一元論は説明的虚構 (Skinner,1956; Chiesa, 1994) を避けつつ、行動と環境の関数的関係 にとどまるための最低条件を与えるものである。内的出来事も、行動の説明概念ではなく分析される対象として、弁別刺激・反応・結果事象の関係 (Skinner,1953) の中で記述し直すことが求められるのである。

5. 厳密科学の態度と統計的優位主義の限界

統計的推論自体は本来、集団傾向を要約するため の手段であり、行動の機能的関係を明示すること とは概念的に区別されるべきである (Sidman,1960; Meehl, 1967)。とりわけ、平均化に依存した分析 は、操作変数の同定を遅らせる危険がある (Skinner,1956; Sidman, 1960)。単ー事例研究における厳 密性は、操作の透明性、反応定義の明確性、ならび に再現性 (Sidman, 1960; 杉山, 2008) に依存する。 応用領域における社会的妥当性の評価は、統計的優 位性のみに依存しない実用的厳密さ (Sidman, 1960) を支える基盤となっているのである。


6. 文化の科学としての第三段階の徹底的行動主義

徹底的行動主義は、文化的随伴性の中で自らを 再定義しながら生き残る科学である (Skinner, 1971; Baum, 2005)。本稿ではその展開を三段階に整理し、 第一段階を理論的確立 (Skinner,1938, 1953)、第二段階を応用行動分析を通じた実装(杉山, 2008; 島宗, 2014) と位置づける。これに続く第三段階として本稿が提案するのは、文化的随伴性そのものを分析対象とし、科学行動を取り巻く随伴性を可視化・再設計する試みである。たとえば再現性問題は、特定の報告様式のみが強化される随伴性構造 (Meehl,1967) として解釈できる。この解釈に基づけば、オープン データ等の具体的な行動レパートリーを強化する制度設計こそが、第三段階における文化的随伴性の再設計 (Skinner,1971; Baum, 2005) の一例となるの である。

本稿が、文化の科学としての徹底的行動主 義を具体化していくための出発点となることを期待したい。


参考文献

[1] Baum, W.M. (2005). Understanding Behaviorism. Blackwell.

[2] Chiesa, M. (1994). Radical Behaviorism: The Philosophy and the Science. Authors Cooperative.

[3] Meehl, P.E. (1967). Theory-testing in psychology and physics. Philosophy of Science, 34, 103–115.

[4] Sidman, M. (1960). Tactics of Scientific Research. Basic Books.

[5] Skinner, B.F. (1953). Science and Human Behavior. Macmillan.

[6] Skinner, B.F. (1971). Beyond Freedom and Dignity. Knopf.

[7] Skinner, B.F. (1974). About Behaviorism. Knopf.

[8] 島宗理 (2014). 『使える行動分析学:じぶん実 験のすすめ』筑摩書房.

[9] 杉山尚子 (2008). 『行動分析学入門:ヒトの行 動の思いがけない理由』集英社.


利益相反:なし.本稿は未査読のプレプリントで ある. 推奨引用形式:Tanaka, M. (2026-02-12). 「文化的 に選択される科学としての徹底的行動主義」。JDBA Journal of Canine Behavioral Science (Preprint).

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